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京都地方裁判所 昭和34年(ワ)1026号 判決 1963年10月03日

原告 毛呂春美

右訴訟代理人弁護士 有井茂次

被告 川瀬与一

右訴訟代理人弁護士 高田糺

同 上西喜代治

主文

原告の被告川瀬に対する訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

原告の本訴は被告川瀬を予備的被告とした主観的予備併合の訴である。

訴の主観的予備的併合が許されるかどうかについては説が分れているが、当裁判所はつぎの理由により、許されないものと解する。

(一)(1)、 予備的併合は審判の統一を目的とするものであるが、主観的併合の場合は民事訴訟法の規定する共同訴訟人独立の原則が作用する結果、訴の主観的予備的併合を許しても、つぎの設例が示すように、審判の統一の目的を達成することができない。

例えば、(イ)原告甲が被告A、Bを予備的関係で訴えた場合、第一審判決において、

(a)  第一次被告Aに対する請求が認容されたとき、

この第一審判決に対して控訴できるのはAのみであり、Aが控訴しても、共同訴訟人独立の原則の結果、Bに対する請求について移審の効力を認めえない。Bに対する請求はAに対する請求認容判決と同時に訴訟係属を失う。したがつて、控訴審判決において、Aに対する請求が棄却されたとき、甲はBに対し再び同一の訴を提起することが必要となる。

(b)  第一次被告Aに対する請求が棄却され、予備的被告Bに対する請求が認容されたとき、

この第一審判決に対して甲およびBが控訴できるが、甲が控訴せず、Bのみが控訴したとすれば、共同訴訟人独立の原則の結果、Aに対する請求について移審の効力を認めえない。Aに対する請求棄却の判決は独立に確定する。したがつて、控訴審判決においてBに対する請求が棄却されると、甲はAおよびBの双方に対し敗訴せざるをえなくなる。

(ロ) 原告甲、乙が予備的関係で被告Aを訴えた場合、第一審判決において、

(a)  第一次原告甲の請求が認容されたとき、

この第一審判決に対して控訴できるのはAのみであり、Aが控訴しても、共同訴訟人独立の原則の結果、乙のAに対する請求について移審の効力を認めえない。乙の請求は甲の請求認容判決と同時に訴訟係属を失う。したがつて、控訴審判決において、甲の請求が棄却されたとき、乙はAに対し再び同一の訴を提起することが必要となる。

(b)  第一次原告甲の請求が棄却され、予備的原告乙の請求が認容されたとき、

(イ)(b)の場合と類似の現象が発生する。

(2)  訴の主観的予備的併合を許した場合前記(イ)(a)、(ロ)(a)の設例が示すように、(イ)(a)の場合の予備的被告B、(ロ)(a)の場合の被告Aは、自己の同意なくして訴訟係属を消滅させられる訴に応訴義務を負担させられた上、後に再び提起される同一の訴に対し応訴義務を負担させられる、という不当な不利益を受けることになる。

(二)  共同訴訟人独立の原則を上訴の関係で修正した上、訴の主観的予備的併合を許す説として、前記設例(イ)(b)の場合、(甲のAに対する請求に関して、Bは甲の側に当然補助参加している関係にあるから。)Bのみが控訴しても、Bは同時に甲のためAに対する関係で控訴してやつたことになる、前記設例(イ)(a)の場合、(甲のBに対する請求に関して、Aは甲の側に当然補助参加している関係にあるから。)Aが控訴すれば、予備的被告Bに対する請求が控訴審に移審する、と説く見解がある。

(右の見解は、前記設例(ロ)(a)の場合、Aが控訴したとき、乙のAに対する請求について移審の効力を認めるのか認めないのか、前記設例(ロ)(b)の場合、甲が控訴せずAのみが乙の請求について控訴したとき、甲のAに対する請求について移審の効力を認めるのか認めないのか、認めるとすればその根拠は何か、の点を明かにしていない。)

訴の主観的予備的併合を許して、審判統一の目的を達成するためには、共同訴訟人独立の原則を上訴の関係で修正するのみならず、必要的共同訴訟の場合の訴訟手続の中断中止に関する規定を準用することが必要となろう。

しかし、当然の補助参加関係を認め、上訴および訴訟手続の中断中止に関し必要的共同訴訟の場合と同一の関係を認めることは、補助参加および共同訴訟に関する民事訴訟法の規定ならびに実際的妥当性より考えて採用できない。

よつて、原告の被告川瀬に対する訴は不適法として却下すべく、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小西勝)

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